私は、美術評論、日本美術史の分野で50年近くにわたって活動をしてきましたが、この間の我が国美術界の隆盛とその芸術的精華にはあらためて目を瞠るものがあります。
これらの輝かしい幾多の美術作品は、日本伝統の美術文化と明治以来の西欧の美術文化との相克触発の中で、諸先輩たちの厳しい芸術上の精進によって創り出されてきたものであります。今後我が国の美術がより豊かな芸術的成果を産み出すために、これらの諸先輩が示した芸術上の進取の精神と我が国の根深い美的伝統が、次代を担う若い美術家たちにしっかりと継承されていくことが強く期待されます。
その為には力のある有望な若手美術家たちが日本美術界の明日を、あらゆる分野で立派に担っていくことができるよう、彼らに対し物心両面にわたる励ましと援けを考える必要があります。しかし、世界でも1、2の経済大国となった我が国においても、若手美術家たちが置かれている現実の環境は必ずしも恵まれたものではなく、現状は寒心に堪えないというのが正直なところであります。
私は、明日の美術の創造と評論を担う有望な若手美術家たちの本分野における優れた活動を顕彰することにより、我が国の美術振興および若手美術家の育成に寄与することを目的として公益信託を設定することを発起致しました。
平成元年5月10日
河北 倫明