公益信託 倫雅美術奨励基金

「倫雅美術奨励賞」30周年に寄せて

「倫雅美術奨励賞」30周年に寄せて

成相肇

 倫雅美術奨励賞が30周年を迎えるとのこと、おめでとうございます。
 私が賞をいただいた展覧会「石子順造的世界」は自分が一から構想したものとしては初めての企画でした。経験も浅く実績もほとんど無いままに与かった過分な栄誉にたいへん驚き恐縮しましたが、受賞が自信に結びつき、以降の仕事の多大な励みとなりました。歴代の受賞者がいずれも受賞後に優れたお仕事を続けておられる方々ばかりであることは、ご選考の鋭い洞察を裏打ちするとともに、まさしく芸術振興にこの賞が寄与していることを証明しています。そこに自分の名が連なっているのを見ると、再び金屏風の前で足が震えた感覚がよみがえるような思いがいたします。

 授賞一覧をあらためて眺めてみて感じるのは、授賞対象の中にいくつも並んでいる「企画及びカタログ中の論文」という文言の重みです。当初は創作部門を設けて美術家も対象となっていた倫雅賞が、美術評論・美術史研究部門に一本化し、学芸員、研究者や評論家を対象とする賞に移り変わったことは必然的な流れであったと思います。なぜなら、とりわけ国内には学芸員および研究員の仕事が公的に顕彰される機会がきわめて少ないためです。もっぱら入館者数という、ほとんど経済的な数値でのみ評価されてしまう美術館活動にとって、倫雅賞のような文化的評価は稀有かつ非常に有意義な存在です。基金設定趣意には「若手美術家の育成」が謳われていますが、評論・研究分野への特化は河北倫明先生の名を刻む賞にふさわしく、またそれらの分野が創作を後押しすることで、美術家の育成にも直結することでしょう。
 展覧会が話題となることはあっても、それが企画者と紐づいて認識されることは一般には稀です。それどころか当の美術館においてさえ、日本では今なお、展覧会を見ても表向きには企画者が個人名として明記されることがほとんどなく、その背景には様々な理由があるとはいえ、このような状況や慣習に対して学芸員や研究員個人を支援する倫雅美術奨励賞基金の活動は先鋭的でもあると感じます。

 今後も将来への道標となるような優れた仕事の数々が受賞リストに列記されて行くことになるでしょう。私自身も賞の名に恥じぬよう精進してまいります。倫雅賞のさらなる発展と新たな才能の登場を心から楽しみにしています。

(東京ステーションギャラリー学芸員)

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